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ハルカナ from fanbox
ハルカナ

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ショーダウンⅡ 『2:勝算の目途は立たずとも……』

2:勝算の目途は立たずとも……  その日の公演をすべて終えた綾香はホテルのロビーに設けられた休憩スペースへと赴き、簡易的に置かれていた白いテーブルを囲って座る結城と麗華と話をするため合流した。  午前4時を回りとっくに人の気配が失せたホテルのロビーは普段の喧騒が遠い昔の記憶であるかのように錯覚させ、その場所を何処か異世界の中に切り取られた一室のような感覚として印象付ける。 「あら? あの“詐欺ロリ生意気女”は残らなかったのね?」  上着を椅子の背もたれに掛け自分も席に座ろうと椅子を引いた綾香は、残った面子を見てその様に言葉を零す。 「詐欺ロリって……鈴音ちゃんの事かしら? 彼女ならもうおネムの時間でしたから、車に戻って貰いましたわ♥」 「おネム? いい歳してそういう所はガキっぽい事するのね?」 「フフフ……鈴音ちゃんは何歳になってもお子ちゃまですからね♪」 「(あいつが聞いたら絶対怒るやつだわ……今の発言……)」 「ところで……そちらの“夏姫”さんの方も姿が見えませんが? 今どちらに?」 「夏姫? あの子は部屋に帰らせたわ。今回の話には関係なさそうだったし……」 「そうですか。まぁ、その方が良いかもしれませんね? 指名されたのは綾香さんだけでしたし……」  麗華のその言葉の返しに思わず涼しくさせていた顔をピクリと反応させてしまう綾香。そもそも名前も知らない他人に突然名指しで指名されたというのだからその理由や経緯が気になるのは当然の事だった。 「その……日野紅葉とか言ったっけ? そいつが私を連れてこいって言ったのよね? あんたの借金返済を待つ代わりに……」 「はぃ……」 「イカサマを受けて負けたゲームは何? ブラックジャック? それともポーカー?」 「……いえ、わたくしが負けたのはルーレットですの……」 「ルーレット!? その紅葉ってやつはルーレット専門でイカサマしてたって言うの? アレでイカサマするなんて……相当なスキルが必要な筈よ?」 「いや、あの……実は彼女……ルーレット“専門”という訳ではなくてですね?」 「……? 専門じゃない?」 「紅葉さんに関するイカサマの報告は……実は数多く集まってましたの。その情報はルーレットだけでなくカードやサイコロを使ったゲームでも寄せられていて……」 「はぁ? 他のゲームでもイカサマやってるって言うの? その女?」 「えぇ。ですから……わたくしが行った時は“たまたま”ルーレットの卓を担当していたというだけでしたので、勝負がルーレットになったというだけですの……」 「待って! そんな馬鹿な話がある? 普通……イカサマをやるなら“自分の得意なジャンル”を専門にヤるのがセオリーよ? って言うか、色んなゲームを掛け持ちでイカサマしようとしたら絶対にボロが出てバレるに決まってるじゃない! 全部を完璧にこなして客を騙すなんて芸当……それこそ子供の頃から仕込まれていないと出来やしないわ!」 「……そ、そんなものなのですか?」 「当たり前じゃない! 良い? 例えばルーレットでイカサマをするとなれば、球を自分の思い通りの所に入れる技術が必要になる。それは“ある程度”なら経験や慣れで狙い通りのポケットの近くを狙う事は出来るかもしれないけど……その経験や慣れを習得するには一朝一夕で済む話ではないわ。なん十万回……なん百万回と球を転がしてようやく放るタイミングやポケットがどの位置に来た時が最適か……とかを肌で感じれるようになれるのよ!」 「うぅ……気が遠くなる話ですわね……」 「そこまでやってもイカサマとして利用できる技術にまでは到達できないわ。あくまで“ある程度”のレベルよ……」 「た、確かに……あんな早く回るルーレットの上で狙ったところに入れるなんて……難しそうだとは思いますが……」 「それを……その紅葉という女はイカサマが可能なレベルまで技術を高めている。それだけでも習得に何十年かかるか分からない驚愕すべきことの筈なのに……」 「…………」 「その女は別のゲームでもイカサマをしている……って言うんでしょ?」 「え、えぇ。被害にあわれた方は……間違いなく何かヤっている……って皆さん口々に言われてまして……」 「ルーレットだけでなくカードやサイコロまで操れるって事になれば……相当優秀な“師匠”に教わっているか……それか、紅葉っていう女がイカサマを習得する天才かのどちらかよ?」 「……優秀な師匠?」 「一つ聞くけど……その女……歳は幾つくらい? 年老いたお婆さんって訳じゃ……ないわよね?」 「年は……恐らく綾香さんと同じくらい……でしたわね。とっても元気な……ギャル? みたいな感じで……」 「年が若いなら尚更、イカサマの英才教育を子供の頃から受けたとしか思えないわ。それこそ……物心つく前から……とか……」 「……………………」  綾香の話を聞き麗華は何かを言いたげに口を開くが、その言葉は口から出さずに考え込むように腕を組んで唸り声を上げた。綾香はその彼女の態度に“何か隠し事をしているな?”と察してしまうが……そこは敢えて突っ込んで聞こうとはせず、話題を切り替えて別の切り口から話を聞き出す事にした。 「あんた……ルーレットで負けたって言ってたけど、どんな負け方をしたの? っていうかどんな勝負をしたの?」 「ルーレットでは……単純に“赤”か“黒””かに賭ける、2分の1の勝負をしたのですけど……」 「レッドブラック……か。勝率は大体4割8分といったところね……。それはあんたが提案した賭けなの?」 「い、いえ……紅葉さんが“この方が分かり易いでしょ?”って言って下さいましたので……」 「その女の言う通りの賭けで勝負した……と? んで? あんたはその勝負……何回受けて何回負けたの?」 「8回……勝負……して、負けるごとに倍のチップを賭けて……再勝負していきました……」 「8回か……それで? 何回勝って……何回負けたの?」 「うぅ……その……。ゼロ……ですわ……」 「……はぁ?」 「ですから……勝った回数は……ゼロ……」 「ゼロって……1回も勝たなかったの!? ほとんど勝率5割の勝負で!?」 「は、はいぃ……」 「50パーセント(正確には50パーセントではないけど)の勝負を8回やって全部負ける確率は……256分の1よ? パーセントにすると0.391%……。“こういうこと”が起こる可能性は1パーセントもない確率なのよ? それを……ヤられた?」 「本当は……もう少し借金を増やして後2~3回くらいはやるつもりではいたのですけど……紅葉さんが自信満々で“何回やっても貴女に勝ちの番は巡ってこないわよ”と……仰られましたので心が折れてしまいまして……」 「それで……馬鹿みたいに負けたまま私の所に来たって事?」 「うぅぅ……そうなんですぅ……」 「でもあんた……さっき言ってたわよね? イカサマを“やってる”のは分かった……って」 「はい……まぁ……」 「ヤってるって分かってて何も反撃できなかったの?」 「いや……その……ヤってるって分かったというか……紅葉さん自身が“貴女には一回も勝たせない”って堂々と宣言されましたから……」 「って事は……どんな方法でイカサマしていたかまでは……分かっていなかったって事?」 「えぇ。わたくし……8回の勝負の間、ずっと紅葉さんの球を投げるタイミングとかルーレットの位置とかを確認していましたけど……彼女の投げ方は毎回バラバラで……」 「バラバラ? 適当に投げていたの?」 「いえ、多分……何かしらの法則性があったと思うのですけど……たったの8回ではそれを見つけられず……」 「まぁ……たかが8戦したくらいでタネが見抜かれちゃ、イカサマ師失格よね……」 「うぅぅ……」 「でも、あんたも何かしら対策を用意して乗り込んだんじゃないの? あんた……そう言うのは抜かりなくやるタイプじゃない……」 「いえ、今回は“様子見”のつもりで行ったに過ぎませんでしたから……」 「様子見? 様子見で8千万も溶かしたの?」 「最初は勝負する事は考えていませんでした……。事実、見るだけにしようと思っていましたからお金も全く用意せず行ったのです。ですが……何故か紅葉さんに勝負を挑まれてしまって……」 「勝負を挑まれた? 初対面のディーラーに?」 「どうやら……向こう側は私の事を知っていらっしゃったらしくて……」 「あんたがカジノ専門の保険調査員だってバレていた……と?」 「“お金は貸してあげるから私のイカサマを見抜いてみない?”と嗾(けしか)けられてしまって……」 「挑発に応じてしまったら、馬鹿負けさせられた……と?」 「うぅ……本当は2~3回くらい適当にやって帰るつもりでしたのに……気付けばもう引き返せない額の負債に膨れ上がってしまっていて……」 「それでも8千万はやり過ぎよ! どうせ負け続けて熱くなりすぎたんでしょ? あんた……イカサマを見抜く目は中々だけど、ギャンブルの才能はからっきしじゃない!」 「イカサマはギャンブルではございませんわ! アレは搾取と言いますのっ!」 「はいはい……っで? その搾取の方法を見抜けないまま泣きながら私の所に来たって訳ね?」 「べ、別に……泣いてはいませんけれどぉ?」 「まぁ状況は分かったわ。それで? あんた……その借金は返す宛はあるの?」 「う、うぅぅ……それは……そのぉ……」  麗華は痛い所を突かれ思わず顔を俯かせてしまう。俯いた顔は苦々しい顔に変わり、視線は救いを求める様に結城社長の方へと向けられる。 「おい待て? まさか俺の金をあてにしてんのか? だったらお門違いだぞ! 俺は8千万なんて大金、無償で立て替えたりはしないからな!」  ダメもとで社長の顔を見た麗華だったが案の定あっさりと断られ増々顔を下に向けて沈んでいく麗華……その様子を見て綾香は溜息交じりに言葉を続ける。 「ところで……あんたのもう一人の仲間……あいつはどうしてるの? あんたの事だから既に相手側に潜り込ませていたりするんでしょ?」 「もう一人の仲間? あぁ……智恵理さんですの? それは勿論♪ 今回も可愛いバニーちゃんになって内部の状況を探って頂いている所ですわ♥」  沈んだ顔を上げパッと表情を明るくさせてその様に答える麗華……。彼女の口から出た“智恵理”という名は綾香にも馴染み深い名前であり、以前の自分が行っていたイカサマを見破った立て役者として彼女の頭には苦々しく刻まれている。 「あいつが潜入してたって事は……ある程度のサポートを受けられたはずでしょ? それでも負けたって言うの?」  麗華の仲間の一人であり、麗華と志を同じくする藤咲智恵理という人物……。彼女は綾香の事件の時にもカジノ側へと潜入し内部情報を探りつつ麗華のサポートを行っていた。彼女は学生時代に奇術研究部に所属していた事もありマジックや手品の類に対しての造詣が深かった為、その知識と観察眼を持って綾香のイカサマを見破る事も出来た。やっている事は殆どスパイに近い立ち回りをしているが、麗華にとっては頼れる右腕的なポジションであり、隠れドSな面を除けば割と常識的な人物であるとも言える。 「先にカジノ側に変装して潜り込ませたのは良かったのですが……どうも紅葉さんの警戒心が強いみたいで、私が下見に行くまでイカサマを一切しなかったみたいですの……」 「あんたがスパイを潜り込ませるかもしれないって見越して警戒していたって事? だとすればあんたの手の内はバレバレじゃない!」 「そうですわね……。どうやらわたくし、綾香さんを呼び出す為のカモにされたのかと……」 「私の事件で暗躍した保険調査員を利用して、私を復讐のためにおびき出す……か……。何かやり口が回りくどくて嫌な感じね?」 「まぁ、向こうとしては綾香さんの足取りが掴めないから私を狙った……と、そういう理屈でしょうけど……」 「その女……ゴールドベガスの従業員だったって名乗ったのよね?」 「……はい」 「ゴールドベガスは私が去った後、一年と経たずに閉店した……。それは私がイカサマ師だとバレたから店の信用に傷が入って客が去っていった……って、仲間内には言われているわ……」 「そうですわね……。でも実際はもっと別の問題であの店は潰れましたわ……」 「元ゴールドベガスの雇われ支配人……岩城……。あいつの経営の仕方がそもそもカジノの業績を悪化させた……」 「彼が行っていた顔認証搾取システム……それがそもそも欠陥品であったが為に、一部の客に裏をかかれて利益を逆に搾取され続けていた。そのシステムに頼りっきりだった岩城さんは、綾香さんが去った後慌てて経営方針を切り替えようとしましたが……時すでに遅く、立て直す事は出来なくなってそのまま閉店に追い込まれた……というのが、私達が調べたそのカジノの裏の真実でしたわ」 「でも、その裏の真実を知っているのはごく僅か……」 「そう。ですから、未だにあの店が潰れた責任は綾香さんだけにあると信じ切っている従業員もいる……」 「その内の一人が……紅葉という女か……」 「恐らく……彼女は綾香さんと入れ替わりでゴールドベガスに入社したディーラーさんだったのでしょうね……」 「私が抜けた穴を埋める為補充された人員。でも、折角就職できたカジノは私のせいで傾いていると気付いて……」 「閉店と同時に恨みを抱えた……と、そんな感じでしょう……」 「成程ね……? まぁ、筋は通ってる感じか……」  綾香と麗華はお互いの考察を出し合って腕組みをして考え込む。  結城はその話を聞きつつフゥと溜息を一つついて話に割り込んだ。 「んで……どうすんだ? 綾香? お前を恨んでいる相手であるその紅葉とかいう女の所に顔を出すのか?」  直球のその質問に綾香も深い溜息をついて彼の言葉に返事を返す。 「そうね……。私を恨んでいるって言うなら……行ってやらないといけないわ。なにせこれは私が蒔いた種だもの……復讐したいって花が咲いてしまったのなら、自分で刈り取りにいかないと……」 「大丈夫なのか? 多分……穏便には済まないぞ?」 「そうね。でも、私にできる事はやらないと……」 「それは……贖罪の為か? お前はあの時十分に償っただろうに……」  結城は2年前のあの凄惨な罰を思い起こしながら苦々しい表情を作る。その罰を綾香も同じように思い出し思わず寒気を催して両腋を庇おうと手を前で組むが……彼女は首を横に振って結城の言葉に言葉を返した。 「償えたのは……あの時その場に居合わせた人にだけよ。私のイカサマで人生を狂わされた人なんて他にも数えきれないほどいたのだから、あの場に居なかった人はまだ私の事を恨み続けている筈……。特に当時の従業員は理不尽に職を奪われたのだから、その恨みも深い筈……」 「でも、あれは……お前だけの罪ではなかっただろう? 岩城の経営の仕方がそもそもの原因だった筈なのに……」 「相手はそうは思っていないわ。それに、私が罰を拒めば……今度は関係のない“私に近しい人間”がターゲットにされるかもしれない……」  綾香はその様に言いながら夏姫がいるであろうホテル上階の部屋の方を向いて小さな息を零す。  結城はそれを見ながらも目を瞑り腕を組んで再び溜息を零す。 「夏姫の為でもある……か……」 「私の罪は私が清算しないといけない。その機会があるなら私は喜んで清算しようと思っているけど……夏姫は何の関係もない。彼女に手が及びかねないというのであれば、私はそれが例え罠であろうとも乗り込んでいくつもりよ!」 「何の関係もない……とは言えないが……まぁ、お前が夏姫を守りたいって気持ちは分かっているつもりだ。なにせ……今のお前があるのは彼女のお陰でもあるからな……」 「夏姫は私にとって大事な仕事の相方であり、人生のでもパートナーでもある。だから、彼女に危害を加えようとする者は……私が許さない!」 「危害が加わる前に手を打つ……か……」 「勿論、それだけではないわ。もしもその紅葉という女が私のせいでイカサマをしなくてはならない事情に追い込まれたというのなら……それも私は正してあげたいって思ってる。イカサマの罪は償っても償い切れるんものではないと……教えなくちゃならない!」 「お前がそれを経験しているから……尚更、止めないといけないって思っている訳か……」 「自分がイカサマやっていて何を偉そうに言うんだって……怒られるかもしれないけど、それは私の役目だと思っているの。どんな手を使ってでも……彼女には理解させないといけないって……」 「じゃあ……その、紅葉とかいうやつと戦うつもりでもあるんだな?」  顔を戻して結城の顔を真っすぐに見返す綾香。彼女は結城の言葉にこくりと頷いて…… 「そうね。そうなるでしょうね……」  と、返した。  それを聞いた結城は再びフゥと大きな溜息をついて、しばしの間何かを考える時間を取った。そして諦める様に再び息を吐くと…… 「勝負するなら……金が要るようになる……。そうだろ?」  と、麗華と綾香を交互に見て言葉を零した。  綾香はその言葉を聞いて申し訳なさげに頭を縦に振り、麗華は目をキラキラと輝かせてウンウンと頭を縦に振り続けた。 「いくらだ? そいつと勝負するのに……いくら用意すればいい?」  結城の続く言葉に麗華が「8千万っ!」と食い気味に言いそうになるが、その前に綾香がフゥと息を吐いて冷静に口を開きその言葉を制した。 「私が戦う為には……多分、1億は用意して貰わないと……相手は勝負に乗っては来ないでしょうね?」 「い、1億っ!?」 「この……賭け事ポンコツ女に8千万も借金させて脅しをかけたのよ? それ以下の資本力しかないって分かれば相手にして貰えないわ……」 「ま、まぁ……そう……だよな?」 「それに……私相手だとイカサマを使ってくるかどうかも分からない。相手に“イカサマを使う程ではない”って舐められたら……普通の勝負を仕掛けられて不正を暴く事も出来なくなる。だから相手には絶対にイカサマを使わせないとならない。その為に“絶対に負けられない”っていう戦いを強いないとならないわ……」 「カジノへのダメージが深刻になるくらいの額を賭けて相手をビビらせる……ってやつか? 負けたら自分だけでは責任が取れない額を突きつけてイカサマを誘う……と……」 「その為には……相手のイカサマを確実に見抜かないと、意味はない。どういうカラクリで勝っているのかを見定めて……勝負を挑まないと……」 「じゃあ……その時間稼ぎも必要になるってことだよな?」 「そう。その時間稼ぎのために……社長? 申し訳ないけど……この女に2千万だけ……貸してあげてくれない?」 「に2千万!?」 「その2千万で先にこいつが勝負を挑む……私はその勝負を見てそいつのタネを見定めるわ」 「い、いや……でもよぉ! 今お前自分で言ったよな? お前が行ったらイカサマをしないかもしれないって……だから、デカい賭けを行ってイカサマを誘導するって……」 「相手がイカサマを使わないようだったらそのゲームに勝てばいいだけの話……まぁ、そうなれば五分五分の勝負だからこいつの運次第って事になるけど……」 「そ、そうか……。勝負に勝てたなら借金を自分で返せるかもしれないし、時間も稼げる……か……」 「もし運よく5~6千万位勝てたなら、流石にその紅葉って女もイカサマを使ってくるかもしれないわ……」 「折角のカモだからな……逃がしたくはない……と」 「その油断を誘えれば、イカサマのタネを見破るチャンスになるかもしれない……」 「成程な……その為に麗華に金を貸してやれと……」  結城と綾香の会話を聞いて“もしかしたらお金が借りれるかもしれない”という期待を麗華は持って内心は嬉しい声を上げているが、実際の彼女の顔は頬を膨らませて不満そうな表情を浮かべている。そして、その不満をぶつける様に二人の会話に強引に自分の言葉を割り込ませてくる。 「ちょっとお二方! 黙って聞いていれば……わたくしをダシに使ってイカサマを誘導しようとしていませんことぉ? そんな噛ませ犬みたいなポジション……わたくし嫌ですわよ?」  駄々をこねるように言う彼女に、結城と綾香は冷たい視線を送って彼女を睨む。 「何が噛ませ犬は嫌、よ! あんたは……勝負の準備も整ってなかったのに挑発に乗って8千万も溶かした挙句に、イカサマのタネすら見つけられなかったじゃない! こっちはノーヒントで勝負を挑む事になるのよ? 救いを求めてるって言うんなら少しは協力しなさいよ!」 「ちょ、わ、わたくしだってただ負けた訳ではありませんわ! わたくしなりに“怪しい”と思っている部分には気付いていますの!」 「何よそれ? じゃあ、それを私に教えなさいよ!」 「で、でも……まだ確証はないので……あまり人には言いたくありませんの……」 「はぁ? 馬鹿じゃないの? 怪しいって思ってるなら今すぐそれを言うのが道理でしょ! それが重要なヒントになるかもしれないじゃない!」 「だって、コレ……わたくしの勘のようなものですからっ! そんないい加減な情報を与えて綾香さんを混乱させる訳にはいきませんわ!」 「いいから言いなさいってば! どんな情報でも今は貴重なのよ!」 「そ、それにぃ! きっと……綾香さんも彼女と対面すれば違和感に気付くはずです! これは“おかしい”って……」 「……会えば……違和感に気付く?」 「そうです! ですから……私の勘よりも、実際に本人に会ってご自分の感覚の方を信じてみて下さい……わたくしは……わたくしなりの裏付けの調査を進めておきますから……」 「……確信が得られていない情報は裏付けを取らないと言わないって主義? なんで……そんなとこだけ保険屋っぽく振る舞うのよ、あんたは……」 「保険屋“っぽく”ではなく、わたくしは保険屋ですぅ!」  麗華の口ぶりは……先の8回の戦いで紅葉の“何か”に気付いている風ではあったが、彼女自身まだそれをはっきりとは確信していないらしく疑問の余地を残しているようだ。しかし例えヒントになるかもしれない事象に気付いていたとしても麗華はそれを口にしようとはしない。なぜなら、もしも自分の勘が見当違いで誤りだった場合……それが致命的な結果を招く事になりかねないと警戒しているからだ。  麗華は情報の不確実性がどんな結果を招くか痛い程に理解している。保険事故調査員となり様々な情報を扱うようになって、自分が“どの情報を信じなくてはならないか”という選択をいくつも強いられてきた。その都度、念入りに調査し情報の正しさの裏付けを行ってきたつもりだが……それでも情報が間違っていた事は何度もあった。  間違った情報に踊らされて時間を無駄に浪費した結果……陥るのは焦りと混乱と疑心暗鬼のループだ。それらに陥るともはや何が本当の情報で何が嘘なのかを見抜くのも難しくなる。  そうなる事が経験上分かっているから、確かでない情報は極力人の前では話さないと麗華は決めている。特に、話の根幹に関わりそうな情報であれば尚更……慎重にならざるをえないのである。 「分かった。まぁ良いわ……とにかく社長? ポケットマネーでもなんでも良いから……用意できる? お金の方……」 「おいおい、簡単に言ってくれるなよ? 2千万位ならすぐ用意できるが……1億の方は上で話し合わないと難しいぞ……」 「……上?」 「会社の金を使わないとならないんだから……頭の固い役員達とかを納得させなきゃならんって事だ」 「……それ、納得させられるの?」 「納得させるさ……。で、ないと1億なんて大金……動かせないからな」 「どうやって?」 「フン、知れた事よ。今俺の経営しているホテルのコンテンツで最高の稼ぎ頭になっているマジカルオンステージのメインイリュージョニストであるAYAが必要としているんだ……って説けば誰だって反論は出来んさ」 「あら……私ってば今では結城社長の財政面まで支えちゃってるの?」 「勘違いするなよ? ホテルのコンテンツの中ではナンバーワンではあるが、経営陣の意識からしてみればまだ俺の運営している製薬会社の方がメイン事業だ。だから、お前個人の為に動かせる金はせいぜい1億が限界の金額だ……。それも“戻って来る金”であると保証したうえでの話でだぜ?」 「戻ってくるお金……って事は、負ける事は絶対に許されないお金って事ね……」 「当たり前だ! 1億って金はそもそも一夜のギャンブルなんかで賭けていい額じゃないんだからなっ! 勝って当たり前だし……万が一負けでもしたら俺の信用も会社も斜めに傾くぞ!」 「それは……増々負けられない勝負になりそうね。面白いじゃない♪」 「こっちは何一つ面白くは無いんだがなぁ?」  結城は一通り話の区切りを付けると、携帯電話を取り出し自分の秘書へと電話を掛けた。そして、今日の正午過ぎに緊急の役員会議を開くという旨を伝え了承を取り付けた。その電話を終えると再び綾香と麗華の方を交互に見て溜息を一つつき……話の続きを零し始める。 「聞いての通り……役員共とは正午過ぎに話を付けるつもりだ。んで、それから銀行やらなんやらで金を掻き集めてカジノに向かうつもりだから……多分、お前らと合流する時間には間に合わない……」 「私達がカジノに向かう時間は、カジノがオープン準備をする前の3時間前……午後3時に指定させて貰ってますわ……」 「カジノのオープン準備前? それって……お客が入る前のカジノに出向くって事?」 「お客さんが入っていると……色々と不都合があるでしょ? 特に綾香さんは……」 「あ、うっ……そ、それは……」 「紅葉さんの方も“その方がやり易い”って言っていましたから……問題ないと思います」 「でも、営業前のカジノって事で……勝っても相手側が無効にするとか言い出さないでしょうね?」 「そこはちゃんと立会人を用意して正式な勝負であると証明して貰うつもりです」 「……立会人?」 「えぇ。こちら側からは勿論、他のホテルにも顔が広い……我らが結城社長」 「はぁ? 俺が立会人? 聞いてないが?」 「もう一人は向こう側(カジノ側)の支配人……伊角 百合子(いすみ ゆりこ)」 「伊角……百合子? (伊角って……何処かで聞いたような名前だけど……)」 「お二人にはVIP席から勝負の行方を見守って貰おうと思ってますが……結城社長は時間に間に合わないという事でしたので、代わりにうちの鈴音ちゃんを社長が到着するまで置いておきます」 「お、おい! 鈴音って……あのチビガキっぽいお前の仲間だろ? 大丈夫なのか? 向こうの支配人なんかと一緒に居させて……」 「大丈夫です。彼女もわたくしと同じ保険調査員の肩書を持っている人間なのですから……相手側が理不尽な事を言い出さないかちゃんと証拠を取らせておくつもりです」 「そ、そうか……? まぁ、あんたがそう言うんなら……別にいいけど……」  麗華はそこまで説明を終えると、改めて息をついて結城と綾香の顔を見比べる。  結城は“困ったもんだ”と言いたげな表情をしているが、綾香の方は“面白そうじゃない”と余裕たっぷりの表情を浮かべている。二人のその対照的な顔を見比べた後、麗華は静かに頭を横に振って話の続きを零していった。 「紅葉さんからは綾香さんを連れてこいという指示しか受けていません。ですから、彼女がわたくしとギャンブルの続きをしてくれるのか……綾香さんともしてくれるのかも分かってはいません」 「そこは大丈夫よ。相手は搾取する事が目的のイカサマ師なのだから……お金をチラつかせれば必ず乗ってくるはず……」 「例えそうだとしても……何のギャンブルを行うかは向こうが現場で決める事で、今の段階では何をどう対策すれば良いか見当もついていないのが現状です……」 「そんな物……全部準備したらいいじゃない」 「全部? ルーレットもカードも……ダイスも……全部……ですか?」 「えぇ、そうよ♪」 「そうは言いますが……またルーレットで勝負を挑んで来たらどうします? 綾香さんの得意なカードではないかもしれないのですよ?」 「別に……イカサマを完全に見破れなくても……逆にイカサマを返して勝ちを捥ぎ取ればいい話でしょ?」 「……勝ちを捥ぎ取る?」 「カジノってのは何もディーラーだけがイカサマをやれるって訳じゃないわ。客の方だってイカサマをしようと思えば出来る……」 「対策って……まさか……こちら側もイカサマの準備をしていこうと……考えていらっしゃいますの?」 「イカサマはイカサマで返されて手痛く負けないとその痛みを真には知れないわ……それはあんたが私にやった事でもあるのよ?」 「わたくしが……した事……」 「普段イカサマでお金を搾取している人間は、搾取される痛みが分かっていない。だから、イカサマにはイカサマで対抗するのが彼女の為にもなると思ってる……」  二年前……綾香は麗華達の手によって自分のイカサマを利用されブラックジャック勝負にて負けを喫した。その時の負け方は……綾香がイカサマを使う前提でカードに仕掛けが施され、そのイカサマを使えば自動的に綾香が負けるという流れが組まれたモノだった。  綾香はその負けを喫した瞬間……自分のイカサマに自分はトドメを刺されたのだと自覚した。そして、そのイカサマがいかに真剣勝負の場を汚していたかを痛烈に思い知らされた。  自分のヤってきた事は……相手のカジノに対する思いやディーラーに向ける信頼を嘲笑う行為だったのだとその時始めて思い知らされ打ちのめされた。  そういう思いをしているからこそ、綾香は自分の出来る事でイカサマという悪に立ち向かわないといけないと思っていたのだ。  例え……また自分の手を汚す事になるとしても……そのイカサマが次のイカサマを止められる抑止力になると信じているのだから。 「でも、本当にそんな事が出来ますの? ルーレットなんて……イカサマのやりようが無いように思えますけど……」 「どんな事が通じるかは実際にモノを見ないと分からないけど……手品を応用すれば大抵の事はイカサマとして通用する筈よ?」 「そ、そうなのですか?」 「私はいくつか“そういう事”に使えそうな道具を隠し持って相手のイカサマを破りにいくつもりだけど……あんたはそういう事考えなくて良いわ。あんたは普通通りに勝負を挑みに行きなさい?」 「は、はぁ……(やっぱりわたくしは噛ませ犬扱いですのね!)」」 「あ、それと! 確か……あいつ……あんたんトコの智恵理は、今も相手のカジノに潜入中だったわよね?」 「え? は、はい……」 「今……連絡は取れる?」 「……えぇ……取れますが?」 「だったら、あいつにこう伝えて欲しいんだけど……」 「そこのカジノで使っている……〇×%△#◇を調べて欲しいって……」 「……っえ!?」 「それが分かれば……私が事前に仕込みを持ち込めるから♥」 「……仕込みを……持ち込む?」 「そ♥ だから、今すぐ聞いて貰える? 多分土台の横に書いてある――」  綾香は意味ありげな笑みを浮かべて麗華にそれを聞くよう促した。麗華はすぐに智恵理に連絡を取り綾香の言ったそれを彼女に告げ調べて貰えるか尋ねた。すると、智恵理の方も既にその事を調べていたようで、すぐに返答が返ってきた。  綾香はその返答を聞いて通話中の麗華の隣から言葉を挟んだ…… 「どのタイミングでも良いから、当日はどこかで私と接触を試みなさい」……と。  それを聞いた智恵理は電話越しにニヤリと笑みを零した。  そして、彼女にこう答えを返すのだった…… 「それは、いつでも出来ると思いますよ?」と、不敵な笑みを浮かべながら……


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