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ハルカナ from fanbox
ハルカナ

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ショーダウンⅡ 『9:絶好手』

9:絶好手  約束通り、最初のカード配りは麗華自身が行う事となり……彼女は念のため最初の2枚を自分に、次の2枚を紅葉に配った後、残りの3枚を自分……紅葉にという不規則な順番で配り終えた。  自分も相手も5枚ずつが配り終えられ、それぞれのカードをカードホルダーに挿し込んでいく両者……その過程で自分のカード役を見た麗華は、表情に出てしまう程の驚きをそこに見てしまう。 『い、いきなり……スリーカードが揃ってますわ!』  麗華の手札はハート・クラブ・ダイヤの5が3枚と、ダイヤのAが1枚、そしてスペードのKが1枚という構成だった。  5という数字は決して強くない数字ではあるが、それが3枚あるというのはスリーカードという役であり初手としてはかなり強い役に部類する。  AとK交換して……もしももう一枚5の数字が入れば、ほぼ負けなしの役であるフォーカードが出来るし……6&6といった別のペア数字が来てもフルハウスというこちらも中々に強い役が入る可能性だってある。そうでなくてもスリーカードという役自体もそこそこ強い役である為相当な事がない限りは負けない……まさに値千金とも言うべき役が初手で入ってしまったのだ…… 『これは……勝負に行かない訳にはいきませんわ……。こんな絶好手で降りるなんて考えられませんし……』  初手からの絶好手に戸惑いを見せてしまう麗華だが、この幸運は仕組まれたモノじゃないかと疑わなかったわけではない。  自分が配った結果の手だと分かってはいるが、このように初手から勝負を挑ませようと誘導させるような手を自分が引いて来る筈はないと何処かで疑っている。  きっと何かしたに違いない……  と、あからさまに懸念の色を顔に浮かべるが……しかしそれをどうやったのか見当もつかない。  タネが分かっていない以上、この手で勝負を仕掛けて様子を見るしかない……  怪しさ9割……でも、もしかしたら自分の運が良かったんじゃないかという希望1割……の思惑で、麗華は札束を5つテーブルの上に出して紅葉の表情を伺う。  紅葉は自分の手を見て「チッ」とディーラーらしからぬ舌打ちをして見せる。  その舌打ちが演技なのか本気なのかは図る事が出来ないが……麗華は5つの札束を縦に積んでそれをベットする準備を整える。 「カード交換……すんの?」  それを見て紅葉が不機嫌そうに質問する。麗華はその質問に「2枚お願いしますわ」と声を張って、要らないカードであるAとKをホルダーから抜きつつ裏向きにそれもテーブルの中央へと差し出していった。 「そっ? じゃあ、私は……ゴミのような手だから……ほとんど入れ替えようかしら……」  そう言うと紅葉は自分の手札を1枚だけ残して引き抜き、抜いた4枚のカードを麗華の捨てたカードの上に乗せてその束を端の方へと置き直す。  捨てた札は二人の手の届かない位置に置かれ、万が一不正が行われないようにとトランプのケースを上に乗せて簡単な封印を施した。  麗華はカードがちゃんと2枚と4枚の枚数捨てられたことを確認し、紅葉がその捨て札を持ち去っていないかも目で追って確認していた。  見ていた結果……紅葉がそれらしい不正を行っていないと分かり、再びカードシューターの方へと視線を移す。  次は紅葉がカードを配る番だ。それを見逃すわけにはいかない……  麗華はシューターの最初に用意されているカードを凝視し、そこに紅葉の指が重なって抜き去るまでの工程をしっかりと見届けた。 「ったく……そんなに警戒しなくて良いのに……用心深いにも程があるわね?」  最初に抜いたカードをまずは麗華に向かって滑らせるように投げる。そしてすかさず二枚目を抜き、それを自分の手元へと置いた。  ここまでで紅葉に怪しい動きは見受けられない。紅葉も、視線はカードの方を見ておらず麗華の方を凝視して彼女が不正を働かないかを監視している。 「紅葉さんこそ……まだわたくしが不正をしないか疑ってますのね? そんなに見つめられると……照れてしまいますわよ?」  紅葉はその言葉に「フン!」と不機嫌そうな息を零し、三枚目のカードを自分の方へと配る。続けて4枚目をシューターから抜くと、それも自分の方へと置いてひと呼吸を入れる。 「麗華ちゃんって……すぐ顔に出るタイプなのね? あからさまに顔が喜んでいるように見えるわよ?」  紅葉はそのように零しつつ5枚目を引き抜き、それは麗華の方へと投げて配る。これにより麗華の手札は2枚を捨て2枚の手札が新たに加わり、彼女のカード交換が終了する事となる。 「そうですか? わたくし……勝負の時に“鏡”など見てませんので自分の顔がどうなっているのか分かりかねるのですが……」  麗華は、紅葉が最後のカードを抜いて自分の手札に加えるまでを見届けて、突然背後を振り返って後ろの様子を確認する。麗華的には意表をついて背後を振り返ったつもりではいたが、自分の背後に人の気配は一切無く……見えたのは赤絨毯が引かれた長い通路と、その端に見えるスロットマシンのコーナーと綾香の居るステージの端の部分だけだった。  麗華の立っているカードゲームの台の背後は、入り口まで続く一直線の通路しかない。壁が近くにある訳でもなく、人が隠れるようなスペースも見当たらない。それが分かった麗華は残念そうな溜息をついて渋々と正面を向き直し配られたカードを見てホルダーに挿し込んでいく。 「なぁに? 後ろに人でも立たせているとでも思った? それとも……“鏡”かなにかで手札を見ているとか……そんな事でも思ったのかしら?」  紅葉も、自分のカードを差し込みながら麗華を茶化す様に言葉を紡ぐ。麗華はその言葉に軽い怒りを感じ睨み目を返す。 『これだけBGMが爆音で鳴り響いていると、人の気配が音で察知できませんわね……。今はたまたま人が通っていませんでしたけど、開店準備を装って紅葉さんの仲間がわたくしの手を覗き込んでいる可能性は十分にある筈……だから警戒は怠らないようにしなくては……』  自分に配られたカードに視線を移すと……残念ながらそこには期待していた5の数字は配られてはいないと確認できた。配られたカードはクラブの2とスペードの7であり、フルハウスという役も手に入っていなかったと分かり落胆の息を零す。 「んで? どうするの? この手で勝負する? それとも……降りて100万を預ける?」  紅葉の問い掛けに麗華は一瞬手の動きを止める。  フォーカードやフルハウスという役が入っていれば負けはほぼないと思えるが……今の手はスリーカードだ、悪くはないが油断ならない手でもある。  しかも5という数字のスリーカードである為、同じ役同士の対決になれば途端に弱くなってしまう。相手にスリーカード以上の役が入っていれば負けてしまいかねない勝負になってしまうのは明確だ……しかし、これ以降初手にスリーカードなどという強い手が入るとは限らない……。麗華としてはここは無難に勝って軍資金を稼ぎたい心積もりであったため…… 「勝負……いたしますわ!」  麗華は紅葉の問い掛けに用意していた500万をテーブルの中央へと押しやって勝負する意思を伝えた。 『数字は弱いとはいえ、紅葉さんは4枚もカードを交換していましたわ! それはすなわち、最初の手札に役が無かったという事……。手札を殆ど入れ替えてスリーカード以上の役が出来る確率はかなり低い筈ですわ!』  と、麗華はその様に予想していた。  確かに紅葉は手札を殆ど全てと言っていいほど交換した……。もしも手札に一つでもペアなり何なりが揃っていれば、それは交換しない筈だ。4枚交換するという事は役は無く諦めて運任せにする行動だと言っても過言ではない……それを紅葉は初手の戦いで行った。恐らく、麗華が“降りる”事を見越してそのような運任せの交換に頼ったのだろうが……残念なことに麗華にはスリーカードという勝負手が出来ている。  “普通”の流れであれば……このようなシチュエーションで負ける事などあり得ないと思えるのだが…… 「それじゃあ同時にこのカードホルダーをそのまま引っ繰り返して手役を見せ合いましょう。良い?」  紅葉は麗華が勝負すると言った言葉に同様すら見せない。  淡々とゲームの進行を指示し……そして…… 「せーの!」  と、声をかけた瞬間……彼女の口元にかすかな笑みが浮かんだのが見えた。 「……ッっ!!?」  それを垣間見た麗華は、紅葉の手札を見て唖然としてしまう。  彼女の手は……J(ジャック)のスリーカード。麗華の役と同じではあるが彼女の手よりも数字の強いスリーカードを紅葉は作ってしまっていたのだ。  思わず麗華は「そんな馬鹿な!」と叫んでしまう。  ゲームの流れでは圧倒的に有利であり、ほぼ負けはないだろうと踏んでいたのに……紅葉は4枚交換という運任せの交換で麗華よりも強い役を作った事になる。それは流石に出来過ぎではないか? と疑って然るべきだ。なにせ……負け濃厚の流れからのこのような逆転劇など高額な勝負で都合よくあっていい筈がないと思っているのだから……。 「私がジャックのスリーカード、麗華ちゃんは5のスリーカード……。同じ役だけどカードの強さは私の方が勝っているから……残念だけど初戦は麗華ちゃんの負けね♪」  麗華は「ちょっと失礼」と声を荒げ、紅葉の手札を引き抜いてそのカードを手で触って調べていく。どこかに突起があったり裏のマークが違っていたりしないか? と、カード自体に不正が無いかを念入りに調べる。しかし……怪しい所は一つもない。自分の手札と見比べ触り比べしても違いは見つからなかった。 「満足した? したならカード返してくれる? 捨て札の方に流すから……」  紅葉は麗華の出した500万の札束を自分の方へと寄せてニンマリと笑みを浮かべる。 「何か……しましたわね? 今……」  麗華はその笑みをキッと睨んで調べていたカードを投げて紅葉に返す。紅葉は投げられたそのカードを集めて綺麗に整え、先程の捨て札の束の場所へと運んでいく。そして、重しとして使っていたトランプの箱を少し浮かせてその束を捨て札と合流させた。 「私に何が出来たって言うのかしら? これだけ不正防止の予防線を張った状態で……」  紅葉は笑みを崩さずに腰に手を当ててその様に言葉を返す。麗華はその言葉にグヌヌと唸り声を上げるが反論の言葉を出す事が出来ない。  きっと何かヤったに違いない……と怪しんでいるが、その方法が見当もつかない。紅葉の手元はずっと見ていたし、怪しい素振りをしようものならすぐに気付けたはずだ。  その兆候が無かったという事は……やはりあの“山札”の方に仕掛けがあると睨むしかない。  最初から配るカードに役が仕込まれていたに違いない……と思わないと、今の勝負は納得がいかない。 「何をしたかは……まだ分かっていませんが、しかし次の勝負は……わたくしにカードを混ぜさせてくださいまし!」  麗華はその様に要求するしかなかった……。カードの山札に仕掛けがあるのなら、ゲームが始まる前にそのカードの山を自分が混ぜてしまえば解決する……そう考えたのだ。 「別にいいけど……その代わり、混ぜた後は私の指示通りに追加で何回かカードを混ぜ直してね?」 「それは……なぜです?」 「そりゃあ……麗華ちゃんがイカサマを仕込む可能性があるからに決まっているじゃない♪」 「くっ! だから、わたくしはその様な事は……」 「はいはい、言葉で何と言おうと駄目駄目ぇ~♪ 身が潔白であるのなら行動で示して頂戴?」 「うぐっ! くっ……」  流れは完全に紅葉の思惑通りに進んでいる。  麗華はまだ……イカサマのタネを見出していないし、その片鱗すらも掴めていない。  残りの軍資金は1500万……  ゲームは下手をすると後3回……もしくはそれ以下で終わってしまう可能性がある。それまでに不正の尻尾を掴まないと……本当に破産してしまう。  麗華は焦っていた……。イカサマを見つけるチャンスが資金と共に奪い去られていく感覚に、場の空気が歪んでいるかのような錯覚さえ覚えた。  しかし、地に足を付けて踏ん張らなくてはならない。500万の勝負……そして8000万の借金は……決して軽くなど無いのだ。  1つの勝負に命を賭けていると思って挑まないと……本当に生命の危機を迎える事になってしまう。  それは自分の資産だけの話ではない……背負っている保険会社の名誉すらも賭けていると言っても過言ではない。  だから負けられない……  絶対に……負ける事は許されない……  麗華は手伝いのバニーから新品のトランプの束を受け取り、それを自分の手でシャッフルし直す。今度こそは不正の余地が入り込まないよう念入りにシャッフルし、自分が納得するまでそれを繰り返す。  その必死な顔を見ながら紅葉はひっそりと心の声を頭の中だけで響かせる。 『何をしても無駄なのに……ご苦労様ね♥』と。  カードゲームの広場でその様な戦いが繰り広げられていた頃、中央の壁際にあるステージではもう一つの戦いが繰り広げられている最中だった。  とは言え、戦っているのは綾香一人……  彼女の対戦相手は人ではない……自分自身の笑欲との戦いだった。 『くっ!! だ、駄目っ! こんなの……我慢できない! 出来る訳がない!!』  綾香の肩は先程よりも大きく震え、口元は痙攣するようにヒクヒクと引き攣っている。閉じた目の端には我慢の涙が滲み、額には体力を消耗している事が一目でわかる汗が浮き出ている。  笑わないよう必死に口を結んで顔を左右に振る仕草を取り続けている綾香だが、足裏に継続して送り込まれる耐え難いこそばゆさに何度も吹き出してしまう危機を迎えさせられていた。  我慢すればする程に足裏をコソコソと優しく撫で回す羽根のこそばゆさが際立って、下腹部から『早く笑え』という圧が絶え間なく込み上げて来る。 「くっっふっ!! ふっっふっっ……くっっ!!」  椅子の下に潜り込んだ牡丹は、そんないつ吹き出してしまってもおかしくない綾香の声に聞き耳を立てつつ、目の前で逃げたそうにモジモジと足指を蠢かせている彼女の足裏を鳥の羽根という凶器で責め立てていた。 『あぁ……♥ この艶めかしい綾香様の足が私の羽根を嫌がる様にジタバタされる様子……とっても官能的で……そそります♥』  右手に持った羽根で綾香の右足裏をスッと縦になぞったかと思えば、左手に持った羽根を左足裏の土踏まずに突き立ててコソコソと毛先を小さく動かす様なくすぐりを行ったり…… 『逃げられないと分かっているのに必死に逃げようと藻掻くお姿が愛おしく感じられて、ついついもっとイジメたくなってしまうんですよねぇ♪』  羽根全体を横に寝かせる様に肌に当て、そのまま上下左右に動かして羽根の横に生えている毛先で連続的に肌を刺激したり、そうかと思えば羽根先だけで足裏の汚れを吐き出す様に素早くくすぐりを入れてみたり……  およそ自分がヤられたら耐え切れないだろうなと思う責めを、牡丹は目の前に無防備に晒された綾香の足裏に施していた。 『あはっ♥ 綾香様ったら……やはり土踏まずのココら辺を触られるのが苦手なのでしょうねぇ? この辺りを触る時は毎回大きくリアクションを返してくださいますし♪』  そして、しばらく足裏をくすぐり続けていると徐々に綾香の弱点らしきものにも気付く事となる。牡丹はその“弱点”を把握すると、口元にニヤリと笑みを浮かべて試しにと言わんばかりにその箇所を羽根の先でつついて綾香に“ココが弱いだろ?”と意地悪な問い掛けを刺激によって行った。 「ひっ……ンひィぃッっ!!!?」  土踏まずの少し外側……窪んだ足の端の部分……そこをツンツンと刺激され、綾香は思わず悲鳴を上げてしまう。  突かれる度に……ゾワッッ! ゾワッッ! と寒気と痒みとじれったさが混在した刺激が送り込まれて思わず足先がピンと姿勢正しく伸び上がる格好になってしまう。  綾香はこのじれったさに声が漏れる事を我慢出来る気がしなかった。刺激されれば勝手に口が開いて悲鳴に似た声が零れてしまう。  反射的に開いてしまう口を閉じる事など綾香には出来ない。いかに意志の力で笑うまいと口を固く閉じようとしても、それを上回る巨大な強制力の前では流石の彼女も屈服せざるを得ない。  反応を見てそれを敏感に感じ取った牡丹は、自身の欲望を解放するようにその右足に見つけた弱点を集中的に責め抜こうと二本の羽根をそこに集合させ始める。 『フフフ……やっぱりココですか♥ 弱点……見ぃ~~~っけ♪』  二本の羽根先が綾香の右足の土踏まずに集まって来る。片方は既に“弱点”の場所の横に羽根先を付けて待機していて、もう片方の羽根はワザとらしく土踏まずの反対側から羽根先でなぞりつつ移動を行ってくる。  そのなぞりは……まるで絶叫へのカウントダウンを行っているかのように段階的にこそばゆさを増し、綾香の苦悶を一層耐え難いものへと変化させていく。 『さぁ、綾香様ぁ? 愛しい夏姫様の疲弊しきった姿を見ながら……このくすぐりを味わってくださいませ? そして、目の前に映っている夏姫様と自身に加えられた笑欲と……そのどちらが我慢に値するかを天秤にかけるんです♥』  土踏まず横一直線に撫でて目的の場所へと到達したその羽根は、待機していたもう一本の羽根と合流し僅かな間動きを止める。  綾香は羽根が動きを止めたその数秒の内に、目の前で息を荒げて項垂れている夏姫の姿をもう一度見る。  そして画面の中の夏姫に誓いを立てる様に心の声を叫ぶ。 『夏姫っ! 私が……あんたの事……守るから! 絶対我慢して……守って見せるから!!』  その様に自分を鼓舞するように手足に力を込めると、その反応を待っていたかのように紅葉の構えていた羽根が動き出し……綾香に無様な敗北を強いる為の刺激が送り込まれ始めた。 ――こちょ♥ こちょ♥  土踏まずの窪みの横端……足裏を上下半分に分けたとするなら、その丁度中央の左端の肌に牡丹の操る二本の羽根先がクネクネと踊る様な動きを見せながら刺激を開始する。 ――コチョコチョコチョ♥ コチョコチョコチョ♥  先程までは“何かのついで”程度に刺激されていたその箇所だったが、今は、そこを弱点と捉えた2本の羽根先が集中的にイジメ抜こうと積極的に動きを早める。 ――コチョコチョ、コチョコチョ♥ こちょこちょ、こちょこちょ♥ コチョコチョコチョ……  それはあまりにもムズ痒くてじれったい過ぎる刺激だった。  今すぐにでも逃げたいと思える程の凶悪なくすぐったさに、綾香は顎を天に向けて頬を息で膨らませ必死に笑う事を我慢するが……口の端からは“プッ! プッ!”という断続的な息漏れのような笑いがどうしても漏れ出してしまう。  くすぐったい! 滅茶苦茶くすぐったい!! 綾香は頭を横に振りながらもその言葉が脳内を埋め尽くすのを感じ、もう限界だ……と悟ってしまう。  自分が笑ってしまえば画面の中の夏姫がどうなるか……分かり切っている。分かっているけど……足裏をくすぐる羽根の刺激にもはや我慢など出来そうもない。  笑いたくない……絶対に笑いたくないっ! そう何度も脳内の言葉を上書きしようとするけれど……刺激が強まればその言葉は“くすぐったい!!”という言葉の方を優先的に上書してしまう。  綾香は頬をヒクヒクと痙攣させつつ、目尻に涙を溜めて……もう一度だけモニターの中の夏姫を見る。夏姫は相変わらずゼェゼェと荒い呼吸を繰り返し疲れ切った様子で項垂れている。  そんな彼女を見て綾香は目に溜まった涙を一粒零し、唇を震わせながら「ごめん」と謝罪の言葉を漏らす。そして謝罪した口はそのまま閉じる事なく口角を広げていって頬を震わせ笑みの形を一気に作り、今度は彼女が溜めに溜め込んでいた“笑い”をその口から吐き出させようと顎を天に向けさせた。  それから身体がブルっと一度震えたかと思うと、綾香はあまりにあっけなく我慢していた笑いを吐き出す事となってしまった。  電気回路が狂ってしまった……玩具の笑い袋の様に……


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