LeaksParty
ハルカナ from fanbox
ハルカナ

fanbox


ショーダウンⅡ 『8:戦いの始まり』

8:戦いの始まり 「はぐっッ!? ぅひぃっ!?」  綾香は思わずその刺激に笑いそうになってしまった。 「くっっ……くふっ!! ちょっ!!」  右の足裏、その土踏まずの中央にカサついた羽根の毛先が突き立てられ、そこで小さな円を描くような動きをさせてくすぐりが開始されたのだ。 「くひっっ!? ひひっ……うぐっっ!!」  羽根の先端の尖った毛先がチョロチョロと上下左右に細かく動きながら土踏まずの肌を意地悪に撫でて円を描くその動きは、綾香が想像していたこそばゆい刺激とは別次元のもどかしさを足裏に与え思わず足裏を庇いたくなる程のじれったさを生み出す。 「はふっ!? うぷっっ!! くっっ……やめ! それ……こそばいっ!!」  顔を斜めに傾けてクックッと肩を震わせ我慢の息を零す綾香……まだ笑うには至っていないが、想定以上のこそばゆさを与えられ彼女は今にも笑い出しそうに口角を上げその刺激を堪え忍んでいる。 「くっっ、くくくっっ……くぅぅ……んくくく……」  足先を右に振って逃がそうとしても左に逃がそうとしても牡丹の操る羽根先は執拗に綾香の足裏の中心にその羽根先を這わせ続け、土踏まずの肌を弄ぶかの様に文字なり円なりを描いて耐え難いこそばゆさを送り込んで来る。綾香はそのこそばゆさに笑いたい衝動を大いに掻き立てられ、顔に苦悶の表情を浮かべてしまう。  今すぐ笑いたいと綾香の本能は訴えかけてくるが、笑ってしまえば夏姫を苦しめる事になると分かっているから笑いたい感情を必死に自分の意思で押し殺して我慢するしかない。 「うくっっふっっ……や、め……んんんっふっ!?」  しかし、笑うという身体の拒否反応を意志の力だけで我慢する事はかなり気力を消耗してしまう行為であり……それを続けると身体が必要以上に力んでしまう為体力までも消耗してしまう。  逃げたくても逃げられずくすぐりの刺激に晒し放題となっている足の裏……  その足裏の土踏まずを……牡丹はイジメる事を楽しむ様な笑みを浮かべて手に持った羽根先でくすぐっている。  妖艶で細い牡丹の指先……    その二本の指先につままれた毛の細い鳥の羽根……  羽根先の毛は芯がしっかり立っていてしなる反発力も強い。そんな芯に支えられた羽根の羽毛は皮膚を撫でると毛先を寝かせる様に押し付けられる事になるが、そのまま羽根自体を動かすと芯が反発力を得て羽根先で引っ掻かせるような動きに変化し肌の表皮を刺激する。  その“引っ掻かれる”という刺激は足裏の敏感な肌にとっては天敵であると言える。足裏をくすぐるという目的であれば、これ以上ないこそばゆさをこの羽根は生み出す事が出来る。 「くぅぅぅ、ふっ、ふっ、ふぐぅぅっぅぅ!!」  一撫でされれば飛び上がってしまいたくなる程の拒否反応を示してしまうであろうこの刺激を、綾香は足を逃げられないよう拘束された状態で送り込まれ続けている。  こしょり……こしょり……と、羽根先が足裏の素肌を意地悪に撫でて綾香を笑わそうと追い立てて来るが、綾香はそれを意志の力で強引に我慢し口を閉じている。  足裏がムズ痒くてじれったくて逃げたくなる程の掻痒感を感じているが、綾香は必死に笑う事を我慢している。  目尻には涙が浮かび、口の端も“笑いたい”と訴える様にヒクヒクと小刻みに痙攣している。 「くっっふっ! くっっくっっ……ぅぐくっ! くふっ! ぅぅぅぷっ……」  椅子の下からは羽根先が素足の足裏を撫でているカサカサという乾いた音が絶え間なく鳴っている。その音を聞いてしまうと、見えない椅子の下で自分の足裏がどんな風にくすぐられているのかを想像してしまい余計にこそばゆさが増してしまう。  想像してはいけないと思いつつも綾香は耳を塞ぐ事も出来ないから、足裏をくすぐっているその音を嫌でも聞かざるを得ない。  聞けば聞く程に足裏のこそばゆさは増すと分かっているけれど……綾香にはどうする事も出来ない。その、自分がくすぐられている音を耳に入れて想像を掻き立てられる事を拒否できない。 『や、やばい! 羽根の動きが予測できなくて……余計にくすぐったく感じる! 椅子の下を確認できないのがこんなに辛くなるなんて思ってもみなかった……くすぐってる姿を見れないから、毎回不意を突かれているようで身体が勝手にビクついちゃう!』  綾香は目の前のモニターの中の夏姫を見て自分を鼓舞し続ける事しか出来ない。刺激に負けて笑ってしまったら……自分ばかりでなくこの夏姫にも罰が下ってしまう。それだけは避けないといけない! と、自分に必死に言い聞かせ、笑ってしまいそうになるの懸命に堪えている。 『あぁ……ダメ! 土踏まずは……やめてっ!! そこ……くすぐったい!! 我慢出来ないっっ!! 撫でないで! やめて! そこは……許して!!』  我慢しながらも綾香の頭の中では声なき声で必死に牡丹に懇願している。  もはや自分の意思だけで我慢するのは限界に近くなってきていると自覚出来てしまっている。しかし敵に向かって口を開いて懇願する事など出来る訳がない……だからせめて、頭の中だけで懇願の言葉を繰り返そうとしてしまう。  綾香はすでに……そうせざるを得ないまでに追い詰められているのだ。  そんな必死な綾香の顔を見て紅葉がニヤリと笑みを浮かべる。 「ほらほらぁ~~もう笑いそうになってんじゃない? そんなんじゃだめよ~? 笑ったらどうなるか……分かっているんでしょ?」  モニター横の眼下には腕を腰に当てて楽しそうに眺めている紅葉の姿が見える。その隣にはまだ申し訳なさそうな顔で綾香を見ている麗華の姿もあり、綾香はその二人に半笑いになりながらも目だけは意志の強い睨み目を向け無言で圧を放つ。 「おぉ、怖い怖い♥ さっさとその怖い顔……だらしない笑い顔になっちゃえばいいのにね♪」  紅葉は演技っぽく怖がる仕草をワザワザ見せつつ、隣に立っていた麗華の手を取った。 「さ、麗華ちゃん? 私達は……この綾香ちゃんの苦しむ姿を楽しみながら勝負の続きを始めましょ?」  手を取り、そのまま来た道を戻る様にカードゲームのテーブルへと引き返していった紅葉に、麗華は困惑の表情を浮かべたままその誘導に従ってゲームの舞台へと戻っていった。  背後からは綾香の「うぅ~~うぅ~~」という苦しそうな唸り声が聞こえて来る。麗華はその唸り声を背中で聞きながら、手を離してディーラー席に向かった紅葉と正面から対峙する。 「さて……麗華ちゃんは約束通り綾香ちゃんを連れてきてくれたから、貴女の言ってた“連れてきたらもう一度勝負をさせて欲しい”という条件は守ろうと思っているのだけど……」  紅葉はゲームテーブルの上に置きっぱなしにしていたカードの束を手に取って、それを再び目にも止まらぬ速さでシャッフルし始める。 「今回は見ての通り“ポーカー”で勝負を受けてあげるつもりよ♪」  ある程度カードをシャッフルし終えた紅葉はカードシューターの中にその束を納めていく。  カードを納めるとすぐに中のカード束がバネ板の力で前へと押し出され、カードの取り出し口に裏面を向けたカードが準備される様子が伺えた。 「役の強弱やマークの強さとかは公式準拠のルールでやっていくけど……今回はサシの勝負だから少し特殊なルールでやらせて貰うわ」 「特殊なルール? それは……どういう事ですの?」 「ちなみに麗華ちゃんはポーカーはどのように戦うか……ルールはご存じ?」 「それは……勿論! ポーカーってあれでしょ? カード5枚でペアやマークを揃えて役を作るゲームですわよね? 昔友人たちと遊んだことくらいはあります……」 「そう。その役を作る過程で要らないカードがあれば1度だけ引き直して交換する事が出来る……それがクラシックなポーカーのルールであり“ドローポーカー”っていう呼び名の勝負方法よ」 「ドローポーカー? へぇ……その様な呼び名がありますのね?」 「ゲームの流れは……まず対戦する人にそれぞれ5枚ずつのカードを配る。そのカードを見て要らないカードを1枚……もしくは複数枚捨てて、それと同じ枚数のカードを貰って役を作る。最後はお互いの出来た役を見せ合って役の強さで勝敗を決める……っとまぁ、そんな感じね……」 「えぇ……流れは理解してますわ」 「今回はそのオーソドックスなルールで勝負をしていくんだけど……麗華ちゃんってば私の事“イカサマ師”だと思っているでしょ?」  紅葉のその言葉に麗華は彼女を怪しむような目を作って頭を慎重に縦に振る。 「……はい」 「だから、そのイカサマの入る余地を無くすような特殊ルールで勝負を進めてあげるわ♥」 「イカサマの入る余地を……無くす?」 「そっ♥ まずはゲームが始まって最初の5枚のカードを配るターンだけど……それは麗華ちゃんに譲ってあげるようと思っているの♪」 「……っ!? カードを配るのを……譲る??」 「普通はカードを配るのはディーラーの役割だから、基本的にはお客さんに配る前のカードは触らせないことになっているけど……今回は特別よ♪」 「い、良いんですの? わたくしがカードを配って?」 「お好きにどうぞ♥ 1枚ずつ交互に配っていってもいいし、先に片方に5枚一気に配ってもいいし、ランダムに配ってもいい……好きにしたらいいわ」 「好きなように……配る……?」 「そっ♥ トランプの順番に“仕込み”があるなんて疑われるのは本望じゃないからさ……まずはそこを潔白にするためにそういうルールにしてあげようって思ったの♥ まぁ、私も同じように“貴女がイカサマをしないか”警戒してるから、交換する時のカード配りは私がやるつもりだけどね?」 「は、はぁっ!? わたくしが……イカサマを??」 「考えられない事もないでしょ? だって……8千万も借金してる貴女が、2千万で再選を挑んできているのよ? 絶対負けられない戦いって思っているのだったら、イカサマを仕込んでもおかしくはないわ」 「そ、そのような事……わたくしがする訳がないじゃないですかっ!!」 「どうだか? 私にも同じようにありもしない罪を押し付けようとしてるじゃない? 貴女にも疑われる気持ちってやつを味合わせないと……公平じゃないでしょ?」 「くっ! よくも抜け抜けとそんな事……」 「まぁ、とにかく……私も貴女の事は疑っているわ。たったの2千万ぽっちで8千万の借金をチャラにしようと考えているのだったら……何か仕掛けてきてもおかしくないなって……」 「くっ……うぅぅ……」 「だから、公正に勝負をする為に……カードを配る権利は貴女にも私にもある……そういうルールにしましょう?」 「……ま、まぁ……良いでしょう。私にもカードを配る権利があるのであれば……文句はありませんわ……」 「良いかしら? それじゃあ……特殊なルールその2。配られたカードは必ずこのカードホルダーに差し込んで動かしてはいけない……よ」 「……カードホルダー??」 「そう。テーブルの上に配られたカードを手で隠して袖の中に仕込んだカードと入れ替える……ってイカサマを私は知っているわ。そのイカサマを防止する為にこのカードホルダーを使わせて貰う事にする♥」  紅葉はそのように言うと、テーブルの端にまとめて置かれていた2つの木製のカードホルダーを指差し、それを手に取って1つを麗華に渡す。  渡されたカードホルダーは木製であるが、横に長いそれは少し内側に曲がった形で成形されている。見た目は曲がった文鎮のような形をとっているが、そのホルダーの上を見るとカードを差し込む為であろう切れ込みが入っているのが目に留まりそれにカードを差すのだと嫌が応にも理解が出来る。 「配られたカードは必ずこのカードホルダーに挿し込んでカードを立てて表示させてね? 一度挿し込めば中に敷かれたゴムが挟むから少し力を込めないとカードは抜けなくなるわ。そんなに強くはないからゲームに支障はないとは思うけど……貴女がイカサマをやろうと考えればかなり難しくなると思うわね♪」 「ちょっ! だ、だから! わたくしはイカサマなどするつもりはないと……」  確かに……これにカードを差せばテーブルの上に伏せて置くだけだったカードを立たせて見やすくする事が出来る。相手側にはトランプの裏しか見えないし、自分側にはトランプの表しか見えない……配られたカードを立て表示しておくという事は、彼女が言うようにカードを入れ替えたりするイカサマは極端にやりにくくなるだろう。  カードホルダー自体も横に一直線に長いというだけでなく、若干内側に丸まる様な……まるでバナナのような形のカーブが設けられている為、身体を被せて置けば背後から見られる心配もない。  そして、トランプをホルダーから抜くのに多少なりとも力が要るという事であれば……それだけでイカサマをするとなれば難易度は上がってしまう事になると理解出来る。それは当然……ディーラー側の紅葉にも言える事だが……  っと、そこまで思考を巡らせた麗華にある疑惑が浮かんだ。 「ん? ちょっと待って下さいまし! このカードホルダー……そっちのヤツと替えて頂けませんか?」  それは違和感でもあった。イカサマを疑っているのはコチラであった筈なのに、いつの間にか向こうのペースで話が進み……あまつさせ自分の方に疑いを転嫁させられているという流れに変わっている。コッチを疑って、そのイカサマの対策をしているという体ではあるが……そもそもそのイカサマ対策が敵側から施されているという事に大きな違和感を感じる。  本来ならばイカサマ防止はこちら側が行わなければならない事なのに…… 「あぁ……成程? まだ私のコトと疑ってるんだ? それで、この渡されたカードホルダーが怪しい……と? そう思った訳ね?」  相手がイカサマ師であれば、相手の筋書き通りに物や進行を任せてはならない。もしかすると、今渡されたこのホルダーも……相手のはイカサマし易く加工されているかもしれない……  そう思った麗華は交換を要求し牽制する意思を見せつけるのだが…… 「構わないわよ? ほら……交換してあげる♪」  しかしながら紅葉は麗華の申し出にあっさりと応え、ホルダーを交換して見せた。麗華はそのホルダーを怪しむように回転させて眺めてみるが……結局怪しい所など見つからず黙ってそれを手元に置く事を余儀なくされた。 「そんなに怪しむんだったら、さっきの“貴女にカードを配らせる権利”も撤回してもいいけどぉ? どっちも私が配るってルールに戻してあげよっかぁ?」 「くっ! い、いえ……それは……変更しないで……良いです……」  ニヤニヤと小馬鹿にするような笑みを浮かべ紅葉がそのように言ってくるものだから腹の底に怒りが湧いてくるが、麗華はその怒りをグッと堪え彼女の言葉に苦々しく返答を返す。  カードを配らせて貰えるという権利は……願ってもない破格なルール改正だと麗華は思っていた。なにせ、カードゲームにおいて“山札にタネを仕込む”という行為は、客側からすれば対処の難しいイカサマになってしまうのだ。そのイカサマは“ディーラーがカードを配る”というルールがあるからこそ生かされるイカサマであり、客に自由に配らせる事になれば仕込んだタネは破綻する事になる。  紅葉は公平を期すため最初のカード配りを麗華が……交換の時のカード配りを紅葉が行う……というルールにしているが、これは確かに納得できる公平性が担保されていると言える。  例え“交換の時に好きなカードを配れるよう紅葉が仕込んだ”としても、毎回交換する枚数はコチラが選べる訳で……紅葉が想定している順番には後のゲームになればなるほどズレが生じる事になる。  自分が何枚交換するかなど……予測が出来る訳もない為、山札に仕掛けを仕込む事は限りなく不可能であると言わざるを得ない。麗華からすれば、この……山札にはイカサマはないという確証が得られるという事自体が値千金の情報でもあり、山札を気にせず他のイカサマに意識を向けられるという利点になる。逆に、このカード配りの権利は意地でも獲得していないと自分が不利になりかねないと知っている。だから、この権利は手放せない……相手にへつらう様で気が引けるが、お願いしてでもこの権利だけは保っておかないと自分が不利になるだけなのだ。   「フフフ♥ 貴女の考えてる事……分かるわ。今こう思っていたでしょ? なんでイカサマを疑っている相手にイカサマ防止のルールを提案されないといけないんだ? って……」  麗華はその言葉にピクリと眉を動かして反応する。 「その疑問に答えてあげる。理由は簡単よ? イカサマなんて最初から手を染めていないのだから、無いものを防止しても痛くも痒くもない……そういう事よ♥」  しれっとそのように語る紅葉に、麗華は食って掛かるように言葉を返す。 「イカサマをしていない? そんな筈……ありませんわ!」  その様に返されても紅葉は余裕ある態度を崩さない。むしろ更に麗華を嘲笑するように鼻を鳴らせて言葉を続ける。 「すべては貴女の勘違いだし……自分の運の無さをイカサマのせいだと責任転嫁しただけの迷惑客なのよ……貴女は!」 「うぐっ! くっ……」 「客があまりに煩くて厄介だと思ったから、こうして“お膳立て”して嫌が応にも自分の非を認めさせるルールにしてあげたの♥ 誰が見てもイカサマの入り込む余地がない勝負……それに負けたなら、貴女は認めなくてはならない筈よ? 本当に……イカサマなどしていなかったのだと……。そして、自分の運が想像以上に悪かっただけなんだと……」 「それは……絶対にありえませんわ……。貴女は必ずイカサマを……」 「いい? 何度も言うようだけど……私がイカサマをしたって言う証拠を、誰の目にも理解出来る形で提出できないと……それはイカサマとは言えないわ」 「むぐっ!? うぅ……」 「例え、貴女がもっともらしいでっち上げを証拠として口走ったとしても反論の余地が少しでも残っている様なら、その反論に対する的確な答えを用意出来ないとイカサマを証明したとは言えない……。麗華ちゃんがしないといけない事はそういう事よ? ただ“絶対ヤった!”と喚き散らせば良いっていう問題ではない……」 「ううぅ……くぅ!!」 「言うだけは簡単よ。でも、麗華ちゃんが本気で私をイカサマ師として告発したいのなら……私のイカサマを逆手に取って勝つぐらいの事をしなきゃ、私にダメージを与える事すら出来ないんじゃないかしら?」 「くぅぅ……」  麗華は反論できない。紅葉は確かに正しい事を言っている。  何のかんのと喚いても証拠を見せられないとイカサマをしたと認めさせることは出来ない。証拠を見せたとしても紅葉がそれを認めないと結局机上の空論として扱われる事になる。  麗華もそれは分かっていた。紅葉にイカサマを認めさせるよりも、そのイカサマを逆に利用して荒稼ぎした方がずっとやり易いと経験から理解もしている。  しかし……そうしようにも、イカサマのタネが分からなければやりようがない。しかも、今回は前回負けたルーレットではなくポーカーの勝負をしようと申し出ているのだから、イカサマ探しはまた振り出しに戻されたと言える。  麗華にとってはそれが痛手だった。まだルーレットの続きで勝負するならイカサマの手口に見当は付けられそうだったのに…… 「さて、それじゃあ最後に、勝負の“賭け額”と勝負の流れを確認して勝負を始めるとしましょうか……」 「……勝負の……賭け額……」 「勝負は貴女のお金が尽きるまで何度でも付き合ってあげるけど……チマチマやるのは性に合わないわ。だから、最低でも500万をミニマムベットとして賭けて貰う」 「ひと勝負……500万っ!?」 「勿論それ以上賭けて貰っても構わないけど……長く戦いたいって言うならお勧めはしないわね♪」 「勝負一回につき500万って事は……全部負けてしまうと……たったの4回しか勝負できない!?」 「負ければ……そうなるわね。でも、その高額な勝負をする事に了承してくれるなら……貴女が更に有利になる条件を付けてあげてもいいわ♪」 「わたくしが更に……有利になる?」 「そう。もし貴女が私との勝負に勝てたら、賭け額を5倍にして戻してあげる♪」 「ご、5倍っ!? サシの勝負なのに……勝てば5倍にして下さるというのっ!?」 「そうよ♥ コチラが高額なベットを一方的に押し付ける形になるからね……。そのリスクに対して貴女にも相応の報酬を用意してあげようと思ったの♪」 「それってつまり……1千万賭けて勝てば……一気に5千万になって返って来るって事ですわよね?」 「そうね……例えば、手持ちのお金全部を賭けて2千万を賭けて勝てれば……」 「……っ!? 1回の勝負だけで……1億ッっ!? 借金がチャラになって……お釣りが返ってきてしまいますわッっ!!」 「まぁ……貴女が“勝てれば”の話だけどね?」 「……ッっ!?」  紅葉の“勝てれば”という言葉に念を押す様な力強さを感じ、麗華は背筋にうすら寒いものを感じてしまう。  自分に有利な条件が連続で飛び出してきていた為……つい、自分の借金と勝負の事に意識が向いてしまっていたが、目の前の敵はイカサマを使ってくると自分が疑いをかけたディーラーなのだ……勝てない勝負を仕掛けてくるはずがない。  甘い言葉で勝負熱を煽って……その本質から意識を外そうとする彼女の物言いに、麗華は今一度冷静さを取り戻すために自分の頬を両手で強く挟んで無理やり目を醒まさせる。 『そうでしたわ……。この勝負……わたくしの借金を返す為の勝負ではありませでしたわね。“イカサマを見つけて突き付ける為の勝負”……わたくしは、そういう勝負をする為に戻ってきたのでした……』  本来の目的をもう一度心の中で反芻した麗華は、勝負熱に火照ってしまった頭を正気に戻す為に深呼吸を繰り返す。そして、十分に冷静さを取り戻したと判断すると、挑発的な視線を紅葉に向けなおして彼女に返事を返す。 「なるほど……分かりました。その額で勝負いたしましょう……。それで? お金はどのタイミングで賭けますの? まさか……ゲームごとに否応なしに500万賭けろとは申しませんわよね?」 「フフ♥ 安心なさい? それも不正がない様に……貴女の意思を汲もうと思っているわ……」 「……? わたくしの意志を……汲む?」 「そっ♥ 流れはこうよ。まず麗華ちゃんが私と自分に5枚ずつカードを配る。次に不要なカードをテーブルの中央に裏返しに置いて、その枚数を確認した私がカードチェンジの札を配る。お互いが最終カードを確認したタイミングで勝負するか降りるかを選択する……」 「カードを交換した後で……勝負するか選んで良いという事ですの?」 「そういう事よ。ただし、降りるを選択するには100万を場の中央に預けて貰うわ……」 「場の中央に……預ける??」 「預けられた100万は次に勝負に勝った勝者に受け取る権利が発生する……。つまりは貴女が3回降りるを選択した場合は合計300万が積み立てられる事になって、次の勝負で貴女が勝負に勝てばその300万を取り戻す事が出来るし、私が勝てばその300万は私が没収する……って言うルールよ」 「成程……。手が悪ければ降りる事も出来るけど……降り続ければそれ相応のリスクを負う……という事ですわね?」 「まぁ、そういう事よ。ちなみにこの預けられたお金には勝った時の倍率は乗らないからそこだけは勘違いしないでね?」 「2回降りて200万が預けられていた時、500万賭けて勝負に勝てば2500万と200万が返って来る……と、そういう意味ですわね?」 「そっ♥ そんな感じよ♪」 「手が悪ければ降りてもいいだなんて……随分と……わたくし有利のルールですわね? そこまでして頂いてよろしいの?」 「フン! そこまでしないと、貴女は駄々をこねるでしょ? 手が入らないように仕組んだんだ~とか妄言を吐き散らかして……」 「うぐっ! そ、そのようなはしたない事……わたくしはしませんわ!」 「どうだか? 前のルーレット勝負で散々喚いていたじゃない……お客さんがいる前で……」 「むぐっ! うぅ……」 「今回はそんな妄言を言えるような隙を貴女に与えないわ。そもそもこれだけ優遇してあげているのだから……イカサマを疑うのが変な話でしょう?」 「それは……どうでしょうね?」 「……ったく、疑い深いわねぇ……。まぁ……良いわ……っで、どうするの? この条件で勝負……受けてくれるのかしら?」  余裕ある態度で勝負を促してくる紅葉に麗華は視線を逸らして考えるフリをする。麗華の中では勝負する事は決まっている事ではあったが、あまりにも敵のペースで話を進められてしまっていた為ここは敢えて考えるフリをし間を開けて冷静になる時間を自分で設けている。  そうして、腕を組んで頭を斜めに傾けたりした後……麗華はフンと鼻息を鳴らせて紅葉の方を振り返り…… 「分かりました……その条件で勝負いたしましょう……」  ……と、返事を返した。 「そう……勝負するのね? 分かった……」  紅葉はその返事を聞いて心の中でほくそ笑む。  獲物が餌に食い付いた……と、麗華に聞こえない声を頭の中だけで嘲笑を零す。 「じゃあ……まずは現金が本当にあるかを確認させて貰える? まだ……実際に見ていないから……」  紅葉の疑う様な声色にムッと頬を膨らませた麗華は、手に持っていたアタッシュケースをポーカーテーブルの上にドカンと乱暴に置きケースを開いて現金の束が詰まっている様子を紅葉に見せつけてやる。  紅葉は置かれたアタッシュケースに手を伸ばし、無造作に札束の一つを手に取って軽く捲って中の札もちゃんと揃っているかを確認していく。  そして、札束が本物の元気である事を確認すると、それをアタッシュケースに戻しニヤリと笑みを携える。 「OK、それじゃあ……早速始めちゃおっか♪」  麗華は彼女の言葉の軽さに不信感を募らせつつも、黙って頭を縦に振ってその宣言を了承した。  するとその宣言の直後……ホール内のBGMが音量を上げるかのように激しさを増した。  天井から照らしている様々な色のスポットライトも、BGMの激しさとシンクロする様に上下左右に動いたり点滅したりを早くさせる。  二人の勝負はその大音量の音楽に包まれながら静かに始まりを迎えた。  そして、最初の勝負は……ルーレットの勝負の時に発揮できなかった運を取り戻すかのように、絶好の勝負手を麗華が掴んで口火が切って落とされる事となったのだった……


More Creators