人間界に来たばかりの頃、僕には大きな悩みがあった。
ご存じの通り、僕は読書が好きだ。最近は配信と原稿が忙しすぎて読書を敬遠しがちだが、活動を始める前は年に200冊以上の本を読んでいた。
ちなみに、最近の読書量は当時と比較すると天地の差であるため、僕は自身を『読書が好きなVtuber』と配信で公言する事をやめている。エアプの読書好きほど滑稽に見えるものはこの世に二つとないからだ。
さて、過去の僕は本を読み漁っていたわけだが、本の事を語り合う友人に恵まれていなかった。個人経営の読書感想ブログなんかにコメントを残したりはしていたが、今のようにSNSをやっていなかったこともあり、僕の『語りたい欲』を十分に満たすことは出来ず、悶々とした日々を過ごしていた。
そんな僕の物語が動き出したのは、読書感想ブログの管理人が「ブログの利用者でオフ会をしよう」と提案したのがきっかけだった。当時は(というか今もだけど)オフ会と言う文化に何となく抵抗感を持っていた僕だったが、管理人の文章が好きだったのと、未知への探求心があってオフ会に初参加することにした。(あと近かった)
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当日、会場には20人くらいの人が居た。老若男女、世代はバラバラだが、ヤンキーみたいな陽キャはいないし安心だな……そんなことを考えた記憶がある。ちなみに圧倒的なメガネ率だった、本を読むと目が悪くなるという俗説は本当‐マジ‐らしい。
ところが、参加者を見渡した僕の顔が、一人の女性(?)に向けられ、止まった。
その女性(?)が持つ圧倒的な存在感に目が離せなかったのだ。
180cm以上はあろうかという巨躯、全てを貫く縦ロールのウィッグ、冗談みたいな甘ロリのコーデ、Z戦士くらい立派な肩幅……男性らしい見た目と女性らしい見た目を足して割り忘れたかのような人物がそこにいた。シルエットは甘ロリを着たワムウである。
(※普段他人の外見的特徴について悪く言うことは無いが、後述の事情もあって僕はこのワムウに許せない怒りを抱いているので、言葉が荒くなるのは許してほしい。)
その人……仮にWとしておこうか、Wは格好こそ女性だが、明らかに身体は男性だった。僕よりも声が低かったので驚いた覚えがある。まあでも、性選択は人の自由だし、本の感想を語るには関係ない。
彼女の存在には一瞬驚いたものの、思い直して普通に楽しい時を過ごした、席も遠かったからWと直接話すこともなかったしね。
そして数時間後。会合も終わって、そろぼち解散しようという流れになった。僕は当時ハマっていた本が同じだったS君という男性と連絡先を交換して、本の話ができる友達が増えた!とほくほく顔だった。
次はこの本を読んでくるよ、じゃあ新しい本を貸すよ。なんていう話をS君としていた時、僕たち二人に巨大な影が忍び寄ってきた。
Wである。大地が二つに裂けそうな低音が響き渡る。僕とS君は硬直し、彼の方に向き直った。
いやしかし、女装しているおじさんだから何だというんだ、読書を愛する同好の士であることに変わりはない。心の中でそう葛藤していると、Wは僕たちに錠剤を渡してきた。
W「二人とも、これ飲んだ方がいいと思う。うん、あ、私も連絡先交換しようかな。」
『連絡先を交換してくれないかな』ではなく『連絡先を交換しようかな』、彼女の中で、既に彼我の格付けは完了しているようだ。Wは恥知らずな縦ロールを振り回しながら僕らに薬を押し付け、代わりに僕たちの連絡先を強奪していった。
その後、Wは僕らの耳元で言葉を放った。
W「薬のこと、わからなかったらお姉さんに聞いてね。」
囁き声のつもりなのだろうが全く囁けていない、耳元で爆音波を放たれてしまった僕たちの鼓膜は50枚破れた。あとそのお姉さんムーブ辞めろ、何だかすごく腹が立つ。こっちは159×歳なんだが?
……それにしてもこの薬はなんだ。正体不明の存在から渡された正体不明の薬、こんなものを飲む愚者がどこにいるのだろうか。
S「あの~、これって何の薬なんですか?」
勇気と無謀をはき違えたSが果敢にも彼女から情報を引き出そうとする。
W「ん、えーっとね。元気が出るお薬みたいなものよ。」
医薬品に"みたいなの"、みたいなフワッとした効能があるわけないだろ。
僕は一刻も早くその場を離れたかったため、S君とWを置いて店を出た。
店の外にブログの管理人がいたのでWの話をしたところ、管理人は「またか」と溜め息をついた。ちなみに管理人は顔も声も山寺宏一さんにそっくりである。
山ちゃん「あ~~、そっか。やってるのかまた。」
山ちゃんの言うことには、Wは読書関係のオフ会に顔を出しては、気に入った男性に錠剤を渡しているそうだ。あの錠剤の正体は女性ホルモン剤、Wが飲んでいるものと同じらしい。彼女は気に入った男性を自分と"同じ"にしたいのだという。
そして、罠にかかり女性ホルモン剤にハマった男に、薬を渡す代わりに性的な関係を迫っているそうだ。何でこんな悪事キングが野放しになっているのか、日本は法治国家ではなかったのだろうか。
これまでに開催したオフ会でもWは同様の『狩り』を繰り返していたらしい。山ちゃんは管理人として止めたそうなのだが、Wは精神的な病を抱えていると自称しており、このオフ会から追い出されたら死んでやる!と山ちゃんを脅迫。奇行を行うこと以外の態度は悪くないため、山ちゃんも黙認せざるを得なかったのだとか。
僕はその話を聞いてS君の身を案じたが、再び暗黒大陸(店内)行きの船に乗る勇気はなくすごすごと帰った。そしてS君にメールで「あの薬、飲まない方がいいよ」とだけ伝えておいた。
それから僕はS君とメールで文通を行っていた。生活環境が近いこともあり、読んだ本の感想や美味しかった喫茶店、小物の情報などを二人で共有した。お互い出不精だったために実際に会うことは無かったが、それでも幸せな関係性だった。
だが、オフ会から1か月たったある日……突然S君からの連絡が途絶えた。電話番号は知らない、返事を催促するメールを送っても全く反応がない。それから2か月、3か月……とうとうS君から連絡が来ることは無かった。
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そんなある日、山ちゃんからメールが来た。
オフ会の出欠確認以降、山ちゃんからメールが来ることは一度も無かったので珍しいなと思って携帯を開き、僕は息をのんだ。
『WとS君みたいな人が、手を繋ぎながらホテル街に行くのを見た。何か聞いてる?』
僕は、目の前が真っ暗になった。
本の感想を楽しそうに話してくれたS君、紅茶よりコーヒー派で角砂糖を3個入れるS君、書店で買った本についてくるブックカバーを集めて友達の誕生日プレゼントにした破天荒なS君……彼はあの薬で道を踏み外してしまったのだろうか。
それ以来、僕はS君とも山ちゃんとも連絡を取っていない。
これが、僕が友人を柱の男に寝取られた話である。
その後、S君の姿を見たものは誰もいないそうだ。
今はSちゃんかもしれないね。
男性陣、オフ会で恥知らずな女装男に出会ったら気を付けたまえ。そいつは君をメス堕ちさせようとする、ホルモンの悪魔かもしれないのだから。
以上、おくすりは薬剤師からもらったものだけを飲もう、縷々道生我でした。
縷々道 生我
2024-02-19 15:25:15 +0000 UTC縷々道 生我
2024-02-19 15:24:26 +0000 UTC蝶々
2024-02-19 05:07:56 +0000 UTCよーさん
2023-03-13 10:10:31 +0000 UTC縷々道 生我
2023-03-03 17:08:11 +0000 UTC墓薙
2023-03-03 10:25:42 +0000 UTC